マイナンバー制度についてーー福井義夫
1.結論
マイナンバー制度導入が始まることになった。この制度の確立により国民生活上い ろいろな利便性が語られている。本当になにが起こるのであろうか。マイナンバー制度の利便性の一つに、マイナンバーカードを一枚保有することにより個人的認証が容易になるとされる。しかし、我々各個人が個人的認証を求められることは度々生じることではなく、又、既に個人的証明のためには、パスポート・運転免許証・健康保険証などにより、何不自由なく可能でありカード一枚とする必然性は特に認められない。更に、将来マイナンバーカードによりクレジットカード・交通機関への利用など利用範囲が広がるとも言われているが、これらは既に日常生活上普通に利用されていて、改めて変更の必要もあるまい。それよりも、マイナンバーカードの紛失によりいかなる面倒が生じるのか、マイナス面も考慮するべきであろう。
“地獄への道は善意で敷きつめられている”という諺もある。
つまるところ、マイナンバー制度の主目的は、近き将来我が国を監視・管理社会と する、特に国税庁による国民資産のフローとストック両方の主要な部分の捕捉を可能 とし、税収入を増やすことにあるのではないだろうか。但し、巧妙な手段で脱税をしている富裕層や企業、自営業者などを摘発し租税特別処置法を見直すのでなければ、社会全体にこの制度導入のために莫大な費用(約3兆円とも言われている)をかける意味は無いであろう。
又、本当にこの制度が必要なものかどうか国民的議論が必要ではなかったかとも思う。諸外国の事例も検討してみるべきかも知れないし、制度を取り止めた国もあると聞く。仕掛けられれば猪突猛進的国民性を持つだけに気懸りではある。今更一億総活躍でもあるまいに。
とにかく、制度の運用には公正、公平を旨とし格差の少ない住み良い国となる様運営されることを願うのみである。
2.マイナンバー(個人番号)と、マイナンバーカード(個人番号カード)の用途は全く
異なる。導入当初は、個人にとっての利点は殆どなし。
3.マイナンバー(個人番号)
1)日本国に住民票を有する全ての個人に、無作為に12桁の数字が割り振られる。
家族連番なし。 番号は不変(80年)
2)マイナンバーの利用範囲は法律により限定される。
3)利用範囲は下記の3分野のみ。
イ)社会保障: ・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得・喪失届
・健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届
・健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届
・健康保険・厚生年金保険被保険産前産後休業/育児休業等取得者
申出書・終了届
・国民年金第3号被保険者関係届
・雇用保険被保険者資格取得届
・雇用保険被保険者資格喪失届/氏名変更届
・児童手当の受給
・生活保護の受給
・介護保険の受給
・その他
ロ)租税: ・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
・給与所得者の保険料控除申告書、兼配偶者控除申告書
・給与所得者の源泉徴収票、給与支払報告書
・退職所得の源泉徴収票、特別徴収票
・住民税給与支払報告書
・賞与支払届
・報酬料金、契約金及び賞金の支払調書
・不動産の使用料等の支払調書
・配当・剰余金の分配及び基金利息の支払調書
・厚生年金未加入企業の摘発(租税絡み)
現在所得税の源泉徴収をしている企業・事業所は250万カ所あり
(国税庁)一方厚生年金を納めているのは180万カ所(日本年金機
構)その差70万カ所の中に加入逃れが多数ある。但し、従業員5
人未満の企業では、法人から個人事業主に変更すれば、加入は
まぬがれる。
・その他
ハ)災害: ・被災者の生活再建支援金の支給
・その他
4)各種給付手続きなどに必要な、所得証明書などの添付書類を、番号利用により省
略できる。
5)通知カードを紛失した場合
紛失届を警察に出す 「受理番号」を受け取る 市町村窓口で再発行
手続き 500円
ナンバーの変更は基本的には不可。原則一生不変である。但し、市区町村長が
不正使用される恐れを認めた場合は変更できる。
4.個人番号カード
個人カードの取得は任意である。入手を希望する場合には、申請書の裏に顔写真(運転免許証と同様)を貼って送付する。
個人番号カードは公的個人認証が目的であり、このカードによるマイナンバーのや りとりは一切なし。とは言いながらカードの裏面にはマイナンバーが記載されること になっているのは矛盾しているのではないだろうか?注意していないと誰にでも見ら れてしまう。
1)ICチップに個人情報を記入し「電子証明書」機能を持つ。マイナンバーは記憶されていない。
2)「電子証明書」機能ではマイナンバーは使用しない。
3)「電子証明書」には、基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)を記録し「署 名用」と「利用者証明用」の2通りある。
「署名用」は、文書を伴う電子申請に使用。
「利用者証明用」には、上記4情報は記録せず、電子的な暗号と鍵を用いて本人
認証をする。
4)個人番号カードの有効期限
20才以上 10年
20才未満 5年
5)暗証番号が必要:カードを受け取り時ICチップに記録する
・「署名用」: 英数字6~16文字
・「利用者証明用」: 英数字4桁(全く同じでも良い)
・「住民基本台帳用」: 英数字4桁(全く同じでも良い)
・「券面事項入力補助用」: 英数字4桁(全く同じでも良い)
6)電子証明証の用途:・マイナンバーのポータルサイトにログインし情報閲覧する場合
・パソコン上で電子証明書を使ったやりとりをする場合には、「利用者クライアントソフト」をダウンロードする必要有。
7)個人番号カード裏面のコピーを採らしてはいけない。(シールなどで隠すこと)
8)個人番号カードを紛失した場合;
・コールセンターに電話(0570-783-578)「利用停止処置」をとる。
・カードが見つかり利用再会したい場合には、市町村窓口で手続きをする。
・カードを再発行する場合には窓口で1,000円支払う。ただし、この場合番号
が変更になるのかどうかは不明。
5.個人番号サービスの問題点
他人の財布の中身を丸裸にする限り、恣意的な使い方をすることなく、誰にでも公平・公正に対処することが求められる。今の政府・官庁にそれだけの信頼性があるのであろうか。
1)第一段階(2016年1月より)
・積立型・年金型・生命保険(約1.6億件)
・証券会社の全口座(個人約2,240万口座)
・銀行の投資信託口座(推定1,000万口座)
・100万円以上の国内入金、海外送金
2)第二段階(閣議決定済、法案が通れば2018年より適用開始)
・銀行の預金口座(個人約8億口座)
口座開設には個人番号カードの「電子証明書」機能の内「署名用」を利用する。
オンラインバンキングには「利用者証明用」を利用する。
贈与税逃れを封じる
遠隔地預金の摘発
その他
3)第三段階(目下検討中)
・不動産登記情報(1所帯当たり、家計資産の内約7割が不動産)
・自動車の登録情報
・住宅ローン
・医療分野
・その他
6.安全・セキュリティ問題
制度の運用上セキュリティ対策としては、
1)マイナンバーのシステム・ネットワークは専用回線を使用し、外部には閉じて いる。
2)業務のために年金情報を共有サーバーに持ち出すことは認められている。
3)分散管理と符合の受け渡しとすることによりセキュリティを強化する。その体制は、
・個人情報は各行政機関が分散して保管することにより、番号が漏れることによる個人情報の全てが盗み取られる可能性は低いとされる。(一部が盗まれることはあ
る?)
仮に番号が漏れても、それだけでは悪用されにくい。
・行政機関の間での情報のやりとりは情報提供ネットワークシステムを介して行う。その際は番号を「符号」に置き換えて行い番号の無い「匿名情報」のやりとりとなる。各機関ごとに使用する番号についての「符号」は、ネットワークシステムのみが知っていることになっている。
セキュリティ体制としてはかなり堅固なものと言えるらしい。
4)情報流出の可能性のある所は、地方自治体と民間企業が対象となる。
日常業務でインターネットに繋がらない業務は殆どない。この段階での情報管理をいかに厳密にするかが課題である。対標的メール、内部犯行などへの対処、特にセキュリティシステムに投じるお金がない、規模の小さい事業者は要注意。
ウイルスへの対応には「総合セキュリティソフト」が必要とされるが、使用している企業は、現状2割程度とされる。
我が国の企業数は約400万、内99.7%を中小企業が占める。現状セキュリティ対策完了は1.3%程度される。
企業は職員退職後7年間は個人情報等を保存する必要がある。(税金の関係らしい)
勤務先からマイナンバーが漏れる恐れはある。番号法に罰則規定がある。
懲役最高4年以下
罰金最高200万円以下
但し、意図的なものでない限り罰則はなし。
5)個人情報流出防止に関しては、システムの導入や担当人材の確保など企業の負担は非常に大きいと予想され、中小企業の一部で廃業が出る恐れあり。何等かの配慮が必要ではないだろうか。
以上