マイナンバー、当面、国民にとって利益なしーー11月の勉強会報告

2015-11-12

 全ての日本居住者に背番号をつける「マイナンバー制度」が来年の年明けから始まる。既に番号の通知カードが家庭や企業に郵送され始めている。政府は国民に個人番号カードを申請して受け取り、来年から使うように働きかけている。しかし、国民にとっては、はっきりした効用がない限り、面倒な手続きを経てカードを受け取る意味はない。また、政府、地方自治体、企業などによってマイナンバーのセキュリテーが守られず、大規模流出が起きたらたまらない。このような観点から「マイナンバー制度」を精査してみると、「今のところ、個人番号カードは申請しない方がいい」というのが私どもの勉強会の結論であった。

 個人番号カードの当面の効用は、これまで市役所や町村役場でしか交付されなかった住民票や印鑑登録証明書を近くのコンビニで受け取れるようになるくらいである。これも、全国一斉というわけではない。2017年になると、インターネット上の個人用ページ「マイナーポータル」が利用できるようになり、個人番号カードに含まれる個人情報を行政がどのように使ったか知ることができる。18年には、税の確定申告ができるようになる。しかし、国民にとって画期的に便利になる話ではない。

 17年半ばになると、国と地方自治体のシステムが繋がるので、引っ越した場合など、申請手続きがかなり減る。18年には、本人の同意が条件であるが、銀行口座とマイナンバーが結びつけられる可能性がある。さらに、その後には、運転免許証、パスポート、自動車登録の書き換えなど、様々な窓口に申請しなければならなかっ面倒な手続きが、オンラインで手続きできるようになることも検討されている。これらが実現すれば、国民にとって効用が増すが、手続きが必要なのは運転免許が原則5年に一度、パスポートは10年に一回に過ぎない。

 そもそも、政府が目論むマイナンバー制度の最大の狙いは、国民の所得と資産をより正確に把握し、課税額を増し、租税収入を拡大することである。したがって、マイナンバー制度の本質は「納税者番号制度」であり、国民の所得と資産を丸裸にすることなのだ。とはいえ、「納税者番号制度」が全面的に悪い制度かというと、必ずしもそうではない。長い間、課税の実態は「10・5・3(トーゴーサン)」などと揶揄されてきた。サラリーマンは所得を税務署によってほぼ完全に把握されているが、自営業者はせいぜい半分、農家は30%程度しか把握されていないことを表している。自営業者、農家や富裕層の所得と資産が100%把握されれば、税負担の公平化に役立つことは間違いない。国民の多くにとっては、所得・資産が丸裸にされるのを甘受するか、税負担の公平性を優先させるかという、選択の問題といっていい。ただ、選択に当たって、「納税者番号番号」を導入するためには、3兆円ともいわれる莫大な費用が掛かることも考慮しなくてはならない。

 「マイナンバー制度」には不可解な点が数多くある。謎ともいえる主なものを2つだけ挙げると下記の通りである。

 ● なぜ、番号を12ケタの長い数字にしたのか。12ケタにすれば約1兆の番号ができるが、人口約1億2千万人のためな   ら、9ケタで済むはずである。3ケタ分は何に使うのか、政府からの説明はまったくない
 ● 個人番号カードのICチップに記録されている個人情報は氏名、住所、性別、生年月日の4つであり、個人番号は含まれ   ていない。個人番号は個人番号カードの裏面に記されている。なぜ、こんなことをしたのか。他人に簡単に見られたり、   コピーされてしまう恐れがあるではないか。奇妙である。

 なんといっても、マイナンバー制度への国民の最大の心配は個人情報の流出である。行政機関の間での情報のやり取りでは、番号は符号に置き換えて「匿名情報」の形で行うので、安全性はかなり高いとされている。しかし、システムが全国的に、かつ、官民間でつながった場合、弱点は地方の小自治体と中小企業である。地方自治体でも豊かなところでは、ハッカー対策ができるが、予算の乏しい自治体ではそれができない。企業では、大小を問わず、従業員の所得控除の申請などのために、従業員全員のマイナンバーを集め、管理しなければならない。その場合、大企業はカネをかけて有効なハッカー対策を講ずるだろうが、貧しい中小・零細企業はそれができない。すなわち、マイナンバー制度は「蟻の穴から堤も壊れる」の喩のように、小さな地方自治体や中小・零細企業からの情報大量流出によって崩壊しかねないのである。

冒頭に述べたように、個人番号通知カードを受け取っても、個人番号カードは申請しない方がいい。しかし、通知カードは大事に保管しなくてはならない。新しい銀行口座を設けたり、投資信託を購入する場合に、銀行や証券会社から個人番号の提示を求められる可能性があるからだ。勉強会の最後に出席者全員が一致したのは、「いま、シニアにとって最も大切なのは、通知カードの保管場所を忘れないこと」であった。                  

(文責=早房長治。次回のブログに福井義夫さんによる、マイナンバー制度についての詳細な報告を掲載します。この勉強会報告以上に皆様にとって参考になりますので、精読して下さい。なお、私の地方出張などのため、福井報告と勉強会報告の掲載が遅れたことを、深くお詫びします)

コメント1件

  • 小 林 昌 三 | 2015.11.13 19:51

    早房 長治 さま
    福井 義夫 さま
    タイミング良く『マイナンバー制度』勉強会でのご報告、拝読いたしました。”何だか良く分からない” 印象がありましたが、このご報告と福井さんの 詳細なご説明で 総務省(?)が実行しようとしているマイナンバー制度が理解できました。有難う存じます。
    このリポートを出来るだけ多くの シニアの方々に読んで欲しいと願っています。本来、この制度実施決定を前に 国民的議論をやって欲しかったですね、何故 強引に一方的に決定したのか? 疑問が残りますが・・・・。保管場所など ボケ年齢になると色々門だとなりそうですね。今回のご報告と 福井さんのリポートは大変勉強になりました。              豪ヒマ人  より

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