在外邦人、テロから守りようがないーー2月の勉強会報告
2月の勉強会は18日開かれ、今冬最も寒い日であったのにもかかわらず、約10人が「テロと日本人の安全」について、熱心に話し合いました。
初めに、幹事の早房から下記の資料が配られ、これを参考にして議論が展開しました。
日本人の安全、日本国の安保ーイスラム国事件を超えて
1) 安部首相の演説と日本人人質殺害の因果関係と、政府の対応
● 1月17日、首相がカイロで2億ドルの人道支援を表明
● 20日、イスラム国による日本人人質2人の殺害予告。2億ドルの身代金を要求
● 24日、イスラム国が湯川さん殺害。身代金に代わりに死刑囚の釈放を要求
● 2月1日、イスラム国が後藤さんを殺害。日本人をテロの標的とすることを宣言
● この間、政府はヨルダン政府に交渉を依頼か。直接交渉の形跡なし
2) 在外邦人の安全確保
● 政府は「安全確保に全力を尽くす」とするものの、決め手なし。企業と個人などは苦慮
● 政府は、万一、邦人が拉致された場合を考えて、さまざまな情報網・人脈をつくっておくことが必要
3) 国内でのテロ防止
● 治安対策の強化と外国人テロリストの侵入を防ぐ水際作戦が必須。
● 将来の移民導入政策にテロ対策を織り込む必要
4)イスラム国を壊滅できるか
● イスラム国は中東、北アフリカなどで支配領域の拡大を目指している
● 米欧諸国を中心とする「有志連合」は空爆に加えてイラク政府軍、クルド人部隊の強化を図っているが、「地上部隊 によってイスラム国を打倒するには3~5年かかる可能性がある」と米国防総省筋は述べている
5) 世界からテロをなくすには
● テロの原因は貧困、差別、宗教対立などに根差しているものが多い。これらをなくすためには、経済・政治・社会シ ステムの根本的改革が必要かもしれない
以上
議論の概要は以下の通りです。
1) 首相演説と邦人人質殺害の因果関については、「首相側が人質が殺される可能性をもう少し配慮していれば、悲劇は起きずに済んだかもしれない」という声が圧倒的で、「首相は米国の中東政策への協調だけを考えていたのではないか」「外務省は、イスラム国の動きを予測できなかったのではないか。中東に駐在する外交官は何をしていたのか」という批判が続出ました。
2)「海外の邦人がテロリストに狙われたら、守りようがない」という点で、全員一致しました。「企業や海外で働く社あ員は安全をどう確保したらいいか、苦慮している」「すでに、妻子は国内に置き、単身赴任を希望する社員が出始めている」「日本のプラントメーカーは、もう中東と北アフリカでは仕事をしないのではないか」などの報告もありました。意見が分かれたのは、外務省が事件後、シリアに行こうとしたジャーナリストからパスポートを取り上げたことをめぐってです。「報道の自由は尊重されるべきだ」という意見が「国民も安全保障政策に協力すべきだ」という意見をやや上回ったと思います。
3)「移民が多い欧米諸国に比べて、日本ではテロは起こりにくい」という安心感が表明される一方で、「移民増加が必至の将来は新たな対策が必要だ」という不安の声も上がりました。「最大のテロ防止策は、国民がイスラム教とは何かを学び、イスラムを差別しないことだ。戦前は、インテリの間ではイスラム研究がかなり活発に行われていた。大川周明の研究などは今でも貴重だ。ところが、戦後は研究者の数も減っている。このままでは、日本でも将来、欧米と同様に差別が生じ、テロの温床になる危険性がある」という意見は、日本中のインテリが考えなくてはいけない課題を指摘しました。
4)「米欧諸国などによる有志連合の空爆でイスラム国が壊滅できるとは思えない」「有志連合が大規模な地上部隊を派遣すれば、壊滅の可能性もあるが、米国も本格的な地上兵力を派遣できないだろう。そうなれば、壊滅の可能性は低い」という見方が大勢でした。「長期間にわたる中東の混乱」という暗い見通しが、出席者の頭を支配しました。日本については、「人道的援助以上の出過ぎた行動はとるべきではない」という意見が圧倒的でした。
5)「EU(欧州連合)の成立・拡大でEU経済が上向きのころ、EUは中東、アフリカ、アジアなどから移民を吸収し、安い労働力として利用した。しかし、リーマンショック以降、不況期に入ると、邪魔者扱いし、差別と貧困の中に放置した。これでは、とりわけイスラムがテロに走るのは当然だ。EU経済が回復すれば、多少、道が開けるかもしれない」という意見に対し、「米国経済はかなり本格的に回復したが、差別や貧困の問題は解消していない。むしろ、格差拡大の傾向さえ見られる。やはり、経済・政治・社会システムの根本的改革が必要の時期に来ているのではないか」という反論が出ました。
「トマ・ピケテイの反資本主義論を研究したらどうか」という提案もありましたが、「素人の勉強会には荷が重いのではないか」という意見が出て、テーマとしての採用は持ち越しになりました。しかし、「資本主義が本当に人々を幸せにするのか」という疑問は、常に私どもの勉強会のサブ・テーマになる可能性があると思います。 (文責=早房長治)
hayabusa | 2015.02.28 22:47
(下記は小林昌三さんのコメントです)
早房 長治 さま
貴兄ご主宰の2月勉強会のブログ拝見しました。
議論の概要 5) 以下に書かれている マトメに賛同します。
ただ、政治・経済・社会システムの変革は非常に重要なテーマだが、未だに世界中 どこの国も挑戦せず、実現も出来ていない。
一方、ISIL 武装暴力集団 壊滅に先進諸国が智慧を絞り合い協力は必須だが、ISIL=イスラム教と 誤解しない事。
このイスラム教、愚生のささやかな体験(数十年前Lebanon 駐在) で、日本人にとり 大変 分かりにくい宗教であり、ムスリムとのお付き合いも容易ではない。
早房さんが書かれている如く我々も 勉強してもっとイスラム教について知るべきでしょう。
また、「21世紀の資本」著者ピケテイ 氏指摘の格差社会は 現実なれど その格差解消の名案、抜本的解決策は見当たらない。
格差は資本主義社会のみならず、社会主義・共産主義 社会にも存在して おり 、解消が求められる人類永遠のテーマの一つ。
今後の勉強会で、取り上げて頂きたい課題の一つなれど 人生観・価値観の異なる会員諸氏の合意 得るのは難しいテーマでもある。
豪ヒマ人の つぶやきです。