アベノミクスの行方とマイナス金利ーー福井義夫

2016-04-10

アベノミクスの行方とマイナス金利
2016年2月25日
福井 義夫

 アベノミクスは2012年末、衆議院選挙圧勝を受けて誕生した第二次安倍内閣
の発足時に、日本経済の立て直しを旗印に賑々しく“三本の矢”と喧伝された政策である。その後3年余りを経過し、その実態が明らかになりつつある。
 ここに、本件について一庶民として思うところを記述してみたい。

1.結論
  1)アベノミクスは既に終焉していると思う。総理自らこの表現を使用す
    る頻度が減ったこと、成果がでていれば大々的に宣伝しているであろ
う。海外からの評価も殆どみられなくなっている。総理当人もそれで
良しとしているのではないだろうか。

  2)アベノミクスは国民の気持ちを高揚させ巻き込む事により支持率を高
め本来の目的である“憲法改正”当面は“安保法案”の成立を果たす
ための、一種の目くらましであったと思う。もし、首尾よく成果が得
られたとしても国民のためよりも、国力増強に向けられたのではない
だろうか。

  3)当初の“三本の矢”は、円安、株高を果たしただけで賞味期限は切れ
    かけている。そのため空疎な“新三本の矢”なるものを掲げてみせた
が、その達成が難しいことは総理当人が一番良く承知しているはずで
ある。
今年の参議院選挙対策であることは余りにも明らかであろう。柳の下
の二匹めの“泥鰌”になるかどうかは国民自身の選択の問題である。

  4)日銀による金融政策頼みの“財政ファイナンス”が経済政策というこ
    とでは、いずれ破綻するであろうことは想像に難くない。この度の“マ
    イナス金利政策“は日銀の手詰まり感を世界に示す結果となったので
    はないか。世界のマネーのリスクオフ(投機の終わり)の動きを見誤
ったとしか思えない。

  5)アベノミクスの根本的な誤謬は、日本経済の実体を見誤っていたこと
    ではないか。我が国は既に成熟社会であり経済大国である。潜在成長
率もゼロに近い状態が継続していた。図表-1を見れば明らかであろう。
日銀が大規模な金融緩和のためにお金を刷り貨幣価値を下げマネタリ
ーベースを増やしてみたところで、マネーストックは増えず結局のと
ころ国債を多量に購入しただけの結果となり、お金は日銀の当座預金
として行き場もなく眠ったままである。
                       
 円安で空前の利益を上げたのは大企業の輸出産業のみ、しかし、彼ら
は我が国経済の実体即ち、為替相場の影響を受けやすい体質であるこ
とを良く承知していて、いずれ円高に振れることも予想済み、内部留
保を積み増すだけである。見せかけだけのベースアップでは、トリク
ルダウンなど起こりようがない。庶民は原油安(図表-2)のメリットも
受けられないでいる。下がるべき物価が下がっていない。

 (6)脱インフレ(2%の物価上昇)、成長率(GDP)2%程度のアップの目
    標は未だ達成される見込みもない。この状況を政権も優秀な官僚たち
    も予想していなかったはずがなく、全て承知の上のことであろう。

2.アベノミクスは何をもたらしたか。そのお題目は下記三本の矢とされる。
   1)大胆な金融緩和
   2)機動的な財政出動
   3)民間投資を喚起する成長戦略 
その旗印の下、既に3年余を経過したが我が国の経済は回復したのであ
  ろうか。否であり回復の兆候は見られない、日銀の金融政策による円安・
  株高をもたらすことにより一見景気回復と錯覚させられているだけであろ
う。
この方策は経済大国を自任する国のすることなのか。脱デフレ政策によ
  る物価上昇によりり逆にGDPが伸び損なっているのではないか。
20014年度はマイナス成長、2015年度の4月以降の各期はマイナス成長
となっている。
   物価上昇によりGDPの約6割を占める民間最終消費支出は減少してい
る(図表-3)。その原因は実質賃金の減少による(図表-4)。

 民間消費支出については、2013年の消費税増税を見越した駆け込み需要
があったものの、アベノミクスによりむしろ減少に転じている。
財政出動は所詮一過性のもので(図表-5)、一時GDPの押し上げ効果を見せるのみ。
現政権に交代してからの伸びは顕著である。相変わらずのバラマキ体質らしい。

 今一番重要な政策であるべき成長戦略については実績が見えないので評価の仕様がない。為替相場の影響を受けない産業構造をいかに創るべきかについて方針すら示せないのは情けない限り。
未だ第一次“三本の矢”の総括もなされないままに、第二次“三本の矢”
  が打ち出された。
   1)2020年にGDP600兆円達成
   2)希望出生率1.8の実現
   3)介護離職ゼロ
   これらには何の具体策もなく単なるスローガンとしか受け取れない。
明らかに次の参議院選挙を睨んだ目くらましのつもりではないか。

 結局のところ、第一次アベノミクスにより得られたことは、
1) 円安:大企業の輸出産業が大幅な利益を得た。その結果賃上げも
  実施された。ただし、中小企業にはその効果は波及してい
ない。
2) 株高:円安に呼応して株高となった。ほんの一部の人は恩恵を受けたが、大多数の国民は株高は好景気と錯覚させられているだ
けであろう。
  思惑外れは以下の通り。
   1)消費者物価2%アップは、当初日銀の目標は2年後とされていたが、
未だ達成されず2017年まで先延ばしされていて、このままではデフ
レ脱却の達成は難しいと思われる。
2) 金融緩和の効能を見誤ったこと。本来金融緩和は景気過熱時の引き締めに効果を発揮するものであろうに、資金の需要のない時に
やるべきことではないはずだ。
      他に狙いが有った場合は別。全て承知の上でお札を刷って多量の
      国債を買い入れる、即ち財政ファイナンスを行い、国債を売った
使い道のない金融機関の金は日銀当座預金としておく。政権の思
惑通りではないか。兎に角何が何でも円安・株高を維持したいと
いうことか。
日銀の独立性が問題になってくるであろう。

3.マイナス金利について
    マイナス金利については素人にはその目論見は分かり難い。ただ、日
   銀の単独行動は「海外の荒波をそのままに、琵琶湖の波だけを鎮めよう
   とするもの。森宗一郎氏」の言葉に共感できる。
    日銀は、これまでの金融緩和政策の結果がはかばかしくなく限界に近
付いてこのままの継続が難しくなった。そこで、金融緩和政策の一貫と
してマイナス金利に踏み切った。要するに手詰まりに陥った。
    ・日銀当座預金に手数料(マイナス金利)を課すことにし、銀行に金
     を使わせようとする。
    ・銀行はお金の貸し先がないので、株や資産に投資するかも知れない
が世界の投機資金のリスクオフの流れに反したことをするだろうか。
    ・国債を買って、日銀に高値で売り手数料の回収を図るか。
    ・銀行は預金の金利を下げる。いろいろなサービスの手数料を上げる。
    ・預金者はタンス預金にする。
    ・値下がりすれば金を買う(金は価値がゼロになることはない)。お金
     と時間のある人は海外に持ち出す。

                              以上

  (早房から=福井さんの原稿も、つい最近まで見つからなくなり、経済ができ
   ませんでした。ブログ管理者として深くお詫びします)

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