引用、間接表現多く、分かりにくい戦後70年首相談話ーー早房長治

2015-08-23

村山談話のキーワードであった「侵略」「お詫び」の言葉も入っている。全体がお詫び調である。今後に向けて不戦の誓いもしているーー安倍晋三首相の戦後70年談話に対して、中国、韓国を含めて世界各国から厳しい反発や批判が起きなかったのはそのせいではないだろうか。

それにしても、分かりにくい。ほとんどの国民は、一回読んだだけでは、首相が何を訴えようとしているのか分からなかったに違いない。第1に、冗長である。村山談話の約3倍の長さだ。第2に、引用や間接的表現が非常に多いからである。

談話の最初の部分では、幕末から敗戦までの約80年の歴史を歴史学者の論文のような調子で延々と述べている。自らの歴史観を示したつもりであろうか。しかし、内容的にも説得力は弱い。日本がアジア諸国を侵略し、国際秩序への挑戦者として欧米諸国に戦いを挑んだのは、欧米諸国が経済をブロック化して、我が国を経済的窮地に追い込んだからだとする。確かに、それは太平洋戦争の一因であっただろう。だが、主因は天皇主権の憲政システムの欠陥がもたらした軍国主義であったと、私は考える。安倍談話では、この点がまったく欠落している。

「侵略」と「植民地支配」については、「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自立の権利が尊重される世界にしなければならない」と正論を述べている。しかし、どの国がどの国を侵略し、植民地支配したのか、どの国がどの国に対して事変や戦争を仕掛けたのか、主語も補語も欠落している。

日韓両国間の紛争の原因となっている「慰安婦問題」については、「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません」と、受け身の表現で一般論化し、旧・日本軍の責任には触れていない。過去の責任を回避する一方で、「21世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります」と述べても、韓国はもちろん、世界各国からも信用してもらえるだろうか。

村山談話、小泉談話になかった安倍談話の大きな特色は、「子孫に謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」という一文が明記されたことである。これは、「太平洋戦争をめぐる謝罪とお詫びは、もう打ち止めにしたい」という首相の強い願望を反映したものである。しかし、この文章には矛盾があり、内外の反発を呼ぶ恐れがあるのではないか。

太平洋戦争において、日本は加害者、多くのアジア諸国は被害者である。加害者が「70年間も謝罪を続けてきたのだから、もういいだろう」と考えるのは尤もとしても、被害者はそうは考えない。自身や親族、友人が受けた被害と恨みは簡単には忘れない。かつて、ドイツの故・シュワルツネッカー大統領が述べたように、「加害者は被害者が許すまで謝罪を続けなければならない」のである。

また、安倍首相は謝罪の打ち切りを提案する一方で、「旧敵国の戦後の日本への善意と支援に対する感謝を忘れてはならない」と説いている。旧敵国の寛容さは永遠に忘れない方がいい。しかし、その前提は、「日本が加害者として被害国に多大な犠牲を強いたにもかかわらず」という事実が存在することである。

日本国民も世界の国々も、安倍首相談話を読むにあたって最も注目したのは、日本の過去の振る舞いよりも、将来、どんな国になろうとしているのかという点であろう。首相は「国際秩序の挑戦者とならない」「積極的平和主義の旗を高く掲げる」と宣言している。だが、この場合、「国際秩序」「積極的平和主義」とは何を意味するか明確ではない。また、首相談話と、政府が国会に提出している、集団的自衛権の行使を含む安保法制の関係も明らかではない。

(早房長治。8月16日に記したものですが、「挑戦するシニア」が主催する「シニアのためのコンサート」の準備作業のため、 発送が遅れました)

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