憲法無視の新・安保法制、若者よ立ち上がれーー福井義夫

2015-06-11

安全保障政策の大転換
現憲法下で自衛隊と米軍の一体化は可能なのか

1.結論
  憲法9条の改正が無い限り、自衛隊と米軍の一体化は不可能であると思う。
  現在審議中の一見歯止めを設けてあるかの様に見せかけながら、実際は時の政権の意のままに解釈変更を可能にする法律では憲法を無視するものと言わざるを得ない。

2.経緯
・このたび国会に“安全保障政策の大転換”の根拠となる、“安全保障法制案”が上程された。この法案は自民党および、特に岸信介元総理に繋がる安倍総理自身の“憲法改正への願望”から発しているのであろう。
  1) 自主憲法の制定
  2) 対等な日米同盟関係
  3) 自虐史観からの脱却
・きっかけは、平成12年12月の総選挙における自民党の圧勝にあり、その後周到にこの法制は準備されてきた。
・現時点での憲法改正発議は第96条の改正を含め未だ容易ではないことを踏まえ、憲法9条を実質的に形骸化させる手立てを考え出した。
・平成14年7月1日に“集団的自衛権”の行使容認の閣議決定を行なったが、  アベノミクスの目くらましが奏功しその後も高支持率を維持したことから平成14年12月に争点の定まらぬ解散総選挙に踏み切り、野党の無力さもあって予想通り圧勝した。これをもって集団的自衛権行使容認問題は支持されたと決め込んでしまった。
・その間与党内で今回提示の安保法制案の作成をすすめ、可能な限り憲法違反を惹起しない様、あいまいで分かりにくい法案に仕上げられた。
・平成15年4月の統一地方選挙の結果を確認した上で、法案を国会に上程し数を頼りに強行採決も辞さず法案成立を目論んでいる。
・更に、総理は渡米しアメリカの支持を取り付けるために同国議会で、日本の国民および国会をないがしろにした、アメリカ議会が喜ぶ内容の演説を行い安保法制を本年8月には成立させるとまで表明した。
・これは立憲国家である我が国を総理自身がないがしろにしたと言わざるを得ない蛮行である。
・また、日米安全保障条約ガイドラインの改定も安保法制の国会審議を経る  こともなく決めてしまった。
・日本はこれでも立憲国家といえるのであろうか。自民党独裁国家になった  かに見える。国民は本当にこの事態の重大さを理解しているのか心配になる。国を挙げての大問題となっていいはずだ。

3.安全保障法制案について
・安保法制案は予想通り憲法違反を承知の上、それを如何に誤魔化すかを練った法案である。このことは6月5日の特別委員会に於ける、民主党辻本議員の質問に対する中谷防衛大臣の返答「現在の憲法をこれを如何にこの法案に適用させていけばいいのかという議論を踏まえて閣議決定を行った」に如実に現れている。自ら本末顛倒であることを認めた発言である。
・国会の政府答弁を見聞きする限り質問に全く真摯に応えず、はぐらかすのみである。質問にまともに応えると法案に隠された意図が明白になり、世論の支持を失い廃案になることを恐れているのではないかと思わせる。
・国会の審議からは、この法制の目的が明らかになっていない。答弁ではこの法案は「国民の命と平和な暮らしを守るため」と繰り返しているが、現在の法体系のどこにどの様な問題があり現実にこの様な危機が迫っているため、早急に法体系の改正が必要であるとする具体的な説明は何もない。これでは国民の理解を得ようとしても無理である。「国民の命と平和な暮らしを守るため」の言葉は戦前の「天皇陛下の御ために」を思い出させる。この旗印の下、結果的に300万人を超える日本人、更に多くの他国の人々の命が失われた過去の過ちを繰り返すことを恐れる。「国民の命と平和な暮らしを守るため」は決して免罪符ではないのだ。
・この法案により、国民の平和と安全が何故現在より増すのかを具体的かつ明確に説明してもらいたいものだ。それが出来ないのであればこの法案は取り下げるべきである。
・憲法(専守防衛)、非核三原則を持つ日本では、自衛隊の役割は自ずと決まっているはずである。政府は抑止力という言葉を口にするが、この言葉は本来原爆保有国間の問題のはず。通常兵器をいくら増強したところで戦争の抑止にはならないことは、現在世界中の紛争を見れば明らかであろう。これまで日本国民の平和と安全を守るための日米安保条約により、抑止力が保たれている現状を変更しなければならない様な如何なる問題があるのか国民に明確に説明するべきである。
・この安保法制は我が国が仮想敵国の脅威への対応、又アメリカの協力要請に応えるために必要な何か得体のしれない“積極的平和主義”を遂行するための戦争法案であると素直に認め国民に訴え、理解が得られるかどうか確認するのが第一。全てをあいまいにするから地球の果てまで自衛隊を派遣するという、国会でまともに答弁の出来ないような訳の分からない法制の提示になるのであろう。
・この様な意図が有るにも関わらず、自衛隊のリスクが増えることはないとの明らかに虚偽と分かる答弁を繰り返す様では、政府自ら国民の信頼を失っていくことになろう。
・仮想敵国を持つことは国内統制上都合が良いかもしれないが、それほど中国が怖いのであろうか。恐らくアメリカは日本を利用はしても、直接中国と事を構えることはあり得ないであろう。北朝鮮を含む日中問題その他国際問題は軍事に頼るより、常日頃の外交努力により解決する以外にないと思う。事が起これば軍事力で解決する手法は時代遅れではないだろうか。
・とにかく、この法案が我が国にとって是非とも必要と考えるのであれば、この様な姑息な手段ではなく、正々堂々と憲法改正の必要性を国民に訴え信を問うべきであろう。

4.むすび
・この法案の審議を通じて憲法違反その他問題点を指摘し世論に訴え、廃案に向けて努力するのが野党の務めであり責任は重大である。与党の強行採決を許してはならない。
・不幸にして法案が成立し、平成16年の参議院選挙の結果自民党が圧勝すると、一気に憲法改正に進むであろう。
・憲法が現政府の言う普通の国(いつでも戦争できる)のものに改正されれば、自衛隊は日本軍となる。勿論、日本独自で他国と戦争することは、国力からしても無理であろうが、この法案が成立すれば、日本は日米安保条約の縛りにより、アメリカに従属して戦争に駆り出され、人的・金銭的に疲弊していくであろう。そういう事態に日本国民が耐えられるのかどうか、今が正念場と言える。“戦前の暗い闇”が思い起される。
・少子化に向かっている日本とすれば、当然徴兵制度は復活するであろう。 
・今から55年前に激しい抗議活動を巻き起こした1960年安保闘争当時の状況より、一歩誤ればはるかに危機的状態に陥る可能性が高いと考えられるにも関わらず、今の日本人、特に自らの将来を真剣に考えなければならない若者達に“平和ボケ”の故か殆ど何の反応も見られないのは不思議である。今が熟慮すべき最後のチャンスではないだろうか。
・55年前の日本は激しい対立はあったものの、国全体に活力が漲っていたと思う、その結果わずか8年間で我が国を世界第二位の経済大国に押し上げることができた。現在の日本は少子高齢化に代表される様に、すっかり活力を失い年2%の経済成長率達成に汲々とする状態にあるのに、これから軍備を増強し普通の国(戦争の出来る国)になれると政治家は本気で考えているのだろうか。これからの日本の経済成長の源を何処に求めるつもりなのか聞きたいものだ。何の目途もなくやみくもに突進すればこの国は破滅するであろう。
・現在の平和憲法は成立の経緯はともかく、戦後70年の平和国家としての実績と共に、世界に誇り得る日本の宝物と考えるが如何。特に政治家は日本国憲法に対する国際的な評価について良く考えて見るべきではないか。威勢のいい言葉を吐くだけが能ではあるまい。

                           以上

コメント1件

  • hayabusa | 2015.06.11 2:45

    安倍政権が最も強く意図しているのは、中国の海洋進出を止めることでしょう。そのためには米国依存を強めるほかないと考えているようです。しかし、依存強化の代償が、将来、
    どれほど大きくなって跳ね返ってくるかを、きちんと考えていない。

    福井さんのおっしゃる通り、新・安保法制は「危うい政権の、危うい政策」です。そのことに、若者はなぜ気が付かないのでしょう。なにか、ショッキングな出来事が必要なのでしょうが。(早房長治)

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