日米同盟強化は「国家百年の計」にプラスか――早房長治

2015-05-06

4月末から5月初めにかけての安倍晋三首相の訪米は、マスコミや国民の多くから成功と受け取られているようである。短期的にはそう受け取っていい点もある。だが、長期的観点からすると、まったく逆の評価も成り立つ。とりわけ、日米同盟の強化が日本の「百年の計」にプラスになるかどうかについては、多くの国民が疑問を抱いている。
日米首脳会談に先立って行われた外務・防衛担当閣僚会合(2+2)で、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)が18年ぶりに改訂され、両国の協力が地球規模に拡大しただけでなく、自衛隊の米軍に対する後方支援などの活動も質量ともに大幅に広がった。首脳会談ではこれを「歴史的な前進を画するもの」と位置付けた。また、安倍首相が米議会上下両院合同会議で行った演説は10回以上のスタンデイング ・オベイション(立ち上がっての拍手)に迎えられ、多くの議員から評価された。

日米同盟を強化することによって日本が得たものは、尖閣諸島海域への官船の侵犯や南シナ海への海洋進出などで日本を脅かしている中国に対する牽制力を強められたことである。オバマ大統領は尖閣諸島が日米安保条約の対象に含まれることを認めるとともに、日米軍事協力が世界規模になることを歓迎した。さらに、日米同盟強化は、国内的に安倍政権の政治力を強めることに著しく寄与した。短期的に見ると、日本外交は安倍訪米によってかなりのプラスを得たといえるのかもしれない。

しかし、長期的視点からすると、安倍訪米の結果が外交的勝利とはとてもいえない。自衛隊と米軍のいっそうの一体化は、米軍が今後も世界中に展開するであろう戦場へ自衛隊を送ることを事実上、強制される結果を招く。安倍政権は米国が世界各地に設定する戦場に自衛隊を派遣し、後方支援を行うことを「積極的平和主義」と称しているが、その実相は「従来にも増した対米従属」であり、日本国民が戦後70年間築き上げてきた「平和国家」の実績を否定するものである。

安倍訪米をさらに長期的な視点から見ると、外交的勝利どころか、日本外交にとっての「歴史的大失敗」といえるのではないだろうか。日本は明治以来、昭和初年まで英国と同盟関係を保つことによって、第2次大戦後は日米安全保障条約を結ぶことで、外交的・軍事的安定を得た。しかし、いま、米国との関係を強化することによって、日本は何を得ようとしているのか。

米国は今日でも世界一の強国であろう。だが、その国力は衰退を続けており、「世界の警察官」の地位に復活する可能性はない。米国が再び覇権を求めようとしたら、イラク戦争の二の舞を演ずるだけである。このような状況の下で、日本はどうしたら世界で外交的・軍事的安定が保てるのであろうか。EU諸国の行動が参考になる。米国とは今までより距離を置く一方で、中国、ロシアのような他の強国と外交関係を濃密化することである。一言でいえば、「一辺倒外交」でなく、「バランス外交」を選択することである。

安倍首相の米議会演説は「米国人を喜ばせるためだけの演説」であった。第2次大戦(対米戦争)に対しては真珠湾、バターン・コレヒドール、珊瑚湾の名を挙げて深く謝罪した。戦後の米国による食糧援助などに感謝した。日本人として驚かされたのは、首相が自分の体験や、リンカーン大統領のゲテイスパーグ演説を挙げて、米国の民主主義を日本の民主化の手本として絶賛したことである。一方で首相は、米国による広島と長崎に対する原爆投下や、今日の米国で頻発している人種差別騒動にはまったく言及しなかった。

安倍首相は[改憲路線・普通の国路線」を突っ走っている。だが、国民の反対でそれを果たせないままに、憲法解釈を変更することによって実質的に改憲を実現しようとしている。首相訪米による日米同盟強化はその一環である。この路線の先には何があるのだろうか。最悪のケースは憲法をめぐる国論の分裂である。そのようなことが起きたら、「国家百年の計」など成り立つはずがない。

コメントを書く







コメント内容



Copyright(c) 2012 Striving Senior, All Rights Reserved.