総選挙の争点は「安倍政治の全体」、アベノミクスは来年に破綻?--早房長治

2014-11-29

  来週から総選挙の選挙戦が始まる。あわただしい師走に、国民は仕事に励むだけでなく、国の将来にも思いを致さなくてはならない。それにしても、酷い選挙である。「大義のない選挙」どころか「安倍首相による、安倍首相のための選挙」なのだ。野党の多弱に付け込んだ「コソ泥」的不公正選挙といってもいいだろう。

 安倍首相は「アベノミクス選挙」と銘打ち、「アベノミクスがデフレ脱却への唯一の道であることを国民に判断してもらう選挙」と主張している。しかし、この看板は鵜呑みにするわけにはいかない。首相がアベノミクスの正しさを信じているのは確かであるとしても、アベノミクスを第1の争点に据えることによって自らの本音を隠している恐れがあるからだ。本音とは、集団的自衛権の行使や特定秘密保護法の本格的施行などである。

集団的自衛権は憲法解釈を変更するよう強引に閣議決定したが、国民の間では今もってはなはだ不評である。このため安倍政権は関連法案の国会提出を統一地方選挙後の来年5月まで遅らせた。今回の総選挙で圧勝すれば、「閣議決定は国民に認められた」と主張し、関連法案の国会通過を強行採決によって図ろうという作戦だろう。一方、特定秘密保護法はこの師走の選挙騒ぎの中で施行しようとしている。

アベノミクスは異次元の金融緩和と大幅な財政出動をもってしても今日までに成功していないことは第2,3四半期の連続マイナス成長で明らかになった。窮地に追い込まれた日銀は10月末、追加の金融緩和策を打ち出し、政府も総選挙後、補正予算で公共事業を追加することを約束した。しかし、失敗した政策を繰り返しても成功につながる可能性は極めて薄いだろう。

日本のように少子高齢化が進んでいる国の経済を活性化することは非常に難しい。労働人口を確保しながら、成長戦略によって生産性を高め、企業の利益が円滑に賃金や設備投資に回るシステムを構築しなければならない。このために重要なのは労働者の正社員比率を高めることである。安倍政権が推進しているような、派遣労働者を中心とする非正規社員比率を引き上げる政策では、雇用が増えても賃金は上昇せず、ひいては国内総生産(GDP)の60%強を占める消費も伸びない。消費増加の展望が開けなければ、企業経営者は設備投資に前向きにならない。

翻って考えてみると、異次元の金融緩和によって国民のインフレ期待を膨らませ、それによって消費や設備投資を増加させようという考え方を中心とするアベノミクスそのものがおかしい。消費者や企業経営者が、実質賃金や企業利益など実体経済が改善しなくても、インフレ期待だけで積極的に行動するというのは経済的常識に反するのではないか。事実、異次元緩和から1年半、日銀がお札を刷りまくって金融市場にじゃぶじゃぶに供給しても、企業はカネを借りようとしなかった。マネタリーベース(通貨供給量)は約1.9倍に激増しているのに、マネ―サプライ(中央政府と金融機関を除く経済主体の保有する通貨)と民間銀行貸出金は4~5%しか伸びていないのである。

今日の経済ではインフレが進行しているが、これは実体経済の成長に伴う「良性インフレ」ではなく、円安に伴う輸入物価高騰や株式市場におけるミニバブルに起因した「悪性インフレ」である。このインフレは消費者や中小企業者を痛めつけるだけで、経済活性化のきっかけにはならない。

アベノミクスのじり貧状態は年明け後も続くと予測される。消費税再増税を先送りした上に、来春以降、アベノミクスが破綻したら、事態は国民にとって最悪である。しかし、そうなる可能性は70%以上あるのではないだろうか。

歴史的に見ると、この総選挙は非常に重要な選挙である。自民党が圧勝すれば、米国から要求されれば「ほとんど無条件で自衛隊を海外派遣する国」になる道が開ける可能性が高いからである。しかし、総選挙に対する国民の関心は極めて薄い。投票率は50%台を超えず、自民党の議席減は30未満に止まるのではないか。

総選挙の争点は「安倍政治の全体」である。とりわけ若い人たちがこのことを認識し、歴史感覚を持って投票してほしい。国債の暴落を発端とする経済の大混乱が発生するにせよ、自衛隊の海外派遣が当たり前の国になるにせよ、その痛みの大部分を引き受けなければならないのは、現在、50歳未満か40歳未満の人たちなのだから。

(早房長治、11月28日記す)

 

 

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