日銀の金融緩和拡大はどう評価されているかーー守山淳

2014-11-09

 10月末に日銀が量的緩和策の拡大を発表しました。これまで年50兆円の日本国債買い支えを80兆円に拡大。

今後日本は財務省が発行する国債の全てを日銀が買い取る自家消費の国になります。従来の国債の大口購入者であ

った公的年金基金は国債購入を日銀に譲りその資金で国内外の株式、海外の債券を買い増します。この買い増しへ

の期待から日本と米国などの株価が急騰しました。世界各国の年金基金の殆どは金融市場のバブル崩壊を懸念して

最近はリスク回避に動いている中で日本だけが逆方向に動き出しリスクを拡大しています。日銀が金融緩和拡大を

発表する2日前に米連銀は金融緩和を辞めました。

 日銀の金融緩和拡大に対し米欧では批判的分析が目立っています。分析記事集サイトのゼロヘッジは「日本の

金融緩和は末期の病人に打たれる沈痛効果だけで治療にならないモルヒネだ」と酷評し「ハロウィンの日に日本が

自殺した」として金融緩和をアベノミクスならぬ「バンザイノミクス」と評しました。「バンザイ」は戦時中の特攻隊員が

自爆死の間際に叫ぶ言葉との理解です。かつて日銀の金融緩和を賞賛したゴールドマンサックスは今や金融緩和

やアベノミクス全体を「失敗がほぼ確実な政策だ」と批判しています。

 黒田総裁が金融緩和拡大を発表する2週間前に日銀の早川元理事は「あまり意味がないインフレ率2%

という目標を深追いせず市場が反乱を起こす前に黒田総裁は勝利宣言をして金融緩和をやめて勝ち逃げをした方が

良い」と発言しましたが黒田総裁がやったことは全く逆方向の米連銀が危険回避の為に辞めた金融緩和を日本が引

き継ぐという行為でした。ブルームバーグ通信は「世界最大の財政赤字国である日本が新規国債の全てを中央銀行

が買い上げる新事態には懸念がある」とし「日銀が金融緩和により発行済み日本国債の半分を保有する様なる20

18年までにデフレなど抱えている問題を解決できない場合、日本は失敗国家に転落する恐れがある」「インフレ

が酷くなるかもしれない」とコメント。FTも「日本はかつて経済面で世界の模範だったが今では他国が真似して

はならない失敗例として認知されつつある」「かつて日本経済の大黒柱だった輸出はいまや日本のGDPの15%

を占めるに過ぎないのに安倍政権は為替を円安にして輸出増で日本経済を上向かせることに拘っている」「日本は

既にほとんど成長できない老人国なのに安倍は財政赤字を野放ずに増やしている」「消費増税も日本経済に大きな

悪影響を与えている」と批判。日銀は金融緩和を拡大する理由を日本経済をデフレから救う為としていますが「商

品が売れなくなって値下がりし製造業などの賃金低下、人々の購買力低下、商品の売れ行きの更なる悪化へと循環

してデフレスパイラルになる」と懸念を指摘。

金融緩和でインフレ気味にすると共に企業の資金調達をやり易すくし投資増、需要増、好況に繋げるのが日銀の目標

と言っているがこれまでの長い日本の物価の値下がりは売れ行き不振からくるデフレの表れでなく生産の国際化

(低賃金国への生産拠点の移動)、IT化の定着による生産・流通コストの削減、貿易の自由化などによる「価格破壊」の

結果で日本企業の生産拠点の国際化で輸出がGDPに占める割合が15%になった。デフレは悪だが価格破壊は

消費者が喜ぶ善である。長期的な商品の売れ行き悪化は経済が成熟して多くの家計が既に欲しい物を大体買った結果

でもある。

近年、日本人の賃金低下が目立っている。正社員の雇用が減り給料が低い派遣社員が増えている。かつて都会の

サラリーマンのモデルは年収500万円ほどの正社員で55-60歳の定年までに持ち家を持ち定年後は年金で生活して

いけた。しかし今後の日本の都会の勤労者のモデルは生涯年収200万円台の派遣社員で生活はぎりぎり貯金できず

持ち家は無く下手をすると「スペック不足」で結婚も出来ず50歳代以降は高齢で雇用されなくなり年金基金も運用破綻

するので年金受給も減り貯金もないまま生活保護に頼って老後をすごす人生になる。日本の財政がいずれ破綻すると

生活保護の給付も減り多数の人々に「のたれ死に」の懸念が増す。近年の日本の賃金低下や雇用の縮小はデフレの

結果でない。

産業のIT化が進み生産(ブルーカラー労働)の自動化だけでなく人手に頼っていた事務作業(ホワイトカラー労働)の

自動化が進み事業の運営に必要な人員数が減っているからだ。ペーパーレス化で印字捺印、宛名書きなどの事務

作業が急減しお金のやりとりも電子化されネット通販の普及で多くの小売店が廃業した。雇用が続くのは飲食店、

美容院、宅配便、コンビニ店員ぐらい。それと大震災以降、国民の不安を煽って役所に依存させつつ繁盛している

お役人。米国では雇用の47%がコンピューター化によって解雇(自動化)の危険にさらされている。金融緩和で

中央銀行が企業に資金を供給しても企業が既に進めたIT化を逆行させて手作業に戻し人々を再雇用することはない。

 この様に金融緩和は賃金低下や雇用縮小を改善しなし景気回復にも役立たない。株や債券の相場を押し上げそれが

景気回復の象徴だとマスコミははやすが実体経済は改善していない。今年の日本の倒産は昨年の2倍の速さで増え

ている。金融の儲けで所得が急増した大金持ち以外の人々に取って金融緩和は害悪になっている。こんな状況を正

面から受け止めず政治家定数の削減など無駄遣いを放置して消費税増税を強行すれば日本が沈没するのは目に見え

ているのが何故理解しようとしないのだろうか。

 

守山  経営コンサルタント オフィス J.M. 代表   

    

 

 

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