安倍政権の内外政策に数々の疑問ーー守山淳

2014-08-01

二次世界大戦前の覇権国家は英国でした。それが戦後米国に取って変わられました。今その米国に取って変わる覇権国家を目指して中国は地球儀的視野から経済面での連携を全面に打ち出した緻密な戦略を着実に進めています。13億人の民を背景にした中国の市場は経済に苦しむ欧米には極めて魅力的であるのか中国の人権問題などには目を背けて中国に取り込まれています。リーマン以降凋落するアメリカを意識し「ドルの基軸通貨」から「人民元を機軸通貨」を狙っての手も打ちました。

7月15日にブラジルで開かれたBRICS(中露印伯南ア)サミットで「BRICS開発銀行」の設立が決まりました。本社は上海。初代総裁はインドですがこのBIRICS開発銀行の狙いは2つ。1つは欧米主導のIMFに対抗する為。IMFは1998年のアジア通貨危機での対応に象徴される様に米英の投機筋が国債や為替の先物市場で金融を崩壊させた新興諸国に対してIMFが救済に入り救済の見返りに更なる経済を疲弊させる厳しい緊縮財政や国営企業や国有資産を民営化する事を求め結果として米欧企業が買収できる状況にして新興諸国の成長や安定を阻害する「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる「弱い者いじめ」を行って来ました。故にIMFは新興諸国の間で恐れられ嫌われて来ました。従来は金融危機に直面するとIMFしか頼る先がなかったのが今回は解消される事に成ります。当初はBRICSのみ対象ですが将来は他の発展途上諸国や新興市場諸国の加盟も認めるという構想です。BRICSだけ現在世界のGDP総額の4割を占めていますから他の途上諸国が加盟すれば世界の主導権を握る事も可能です。日本は米国に次ぐIMFの出資国ですが米英に従属してIMFの新植民地主義に対して見て見ぬふりをしてきました。

BRICSの中で最も世界に進出しているのは中国企業で各地の途上諸国で日用品の売り込みやインフラ事業の経営、石油ガス・鉱物資源の開発、武器販売などを急拡大しています。アフリカ大陸では「北風と太陽」の手法でそれまでアフリカを支配してきた米欧勢を押しのける事に成功して

います。中国はアフリカで嫌われている面もありますが米欧も中国に劣らず嫌われています。日本は条件をつけないので好かれいますが米国が了承した範囲でしか動かないのが実態です。

つ目は人民元を世界の基軸通貨にする狙いです。この経済の拡大に中国は決済通貨として米ドルではなく人民元を要請しています。BRICSは新設の開発銀行の機能の一部として各国の中央銀行同士が自国通貨を交換・スワップする制度を確立しそれで貿易代金の決済が出来る様にしました。

正に基軸通貨が米ドルから人民元に向かう布石です。各国が貿易で儲けた資金がドル建てで米国債を買って運用せざるを得なかった今の状況が終わり米国債の売れ行きが悪化し米国の金利上昇のお

それが出ます。リーマンショック後、基軸通貨のドルの終わりが米欧の政界やマスコミで語られましたが今回のBRICSの多国間スワップ制度は既にいくつかの2国間で開始されており事実上ユーロも参加しています。EUの3大国であるドイツ、フランス、英国はいずれも最近中国と協議して人民元とユーロやポンドを交換する決済所を創設しました。フランスは米国がBNPパリバ銀行に対する嫌がらせの巨額罰金を科した報復として貿易のドル決済を減らしてユーロ決済を増やすと表明しています。ドイツもスパイ事件で米国への信頼を失いドイツ政府内に未だに米国のスパイを探す策を強めています。NATOの同盟関係は崩壊しつつあります。

中国は更に世界銀行のアジア地域版ともいうべきアジア開発銀行(ADB)に取って代われる「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立する計画を進めています。ADBは歴代日本人が総裁ですが米国15・7%、日本15・6%という出資比率(決定権比率)に対し中国には5・5%の出資比率しか与えられておらずこれに不満の中国が自前の国際開発銀行の創設を目指し「西域」「シルクロード」として歴史的な影響圏とみなす中央アジアや西アジア諸国のインフラ整備に援助して傘下に入れるために創設する中国の地域覇権拡大のための国際機関と言えます。中国は中央アジアやイラン、パキスタン、アフガニスタン方面への「陸のシルクロード」だけでなくミャンマーやバングラディシュ、スリランカ、モルジブなどインド洋に面した諸国を経済支援して傘下に入れる「海のシルクロード」の構想も進めておりこれもAIIBの投資対象になります。

今年3月の習近平の欧州訪歴から中国は「シルクロードを貿易路として再開発する」と盛んに言い出しました。中国と欧州の貿易をシルクロード経由の鉄道や航路でつなごうとEU側を誘っており、これはEUに中国が中央アジアや西アジアを傘下に入れて開発することを認めさせようとする動きであると同時にウクライナ危機で険悪になったEUとロシアの関係を中国が取り持ちBRICSの仲間であるロシアを助ける意味もあります。5月にロシアのプーチンが中国を訪問した際にはアジア諸国で対米従属的でない地域安全保障の枠組みを作ることをめざす「アジア相互協力信頼醸成会議」CICAが上海で開かれました。7月には習近平が韓国を初めて訪問。その時に韓国との貿易における人民元と韓国ウォンの決済を増やし中韓貿易におけるドル決済の比率を下げることを韓国政府と合意しました。中国はいずれ自国の影響圏に戻そうと考えている朝鮮半島から在韓米軍を撤退させるのが長期的な目標でありその意味で中国が対北戦略で韓国を引っぱり込もうとするのは韓国を対米従属から引き剥がそうとする策略だと言えます。

更に最近報道された南米アルゼンチンの経済危機に中国は多額の援助を約束し南米も取り込む動きをしています。

 人民元は基軸通貨になれるかと言えば世界の外貨準備高の64%が米ドルであり貿易決済の80%が米ドルである現状が簡単に崩れるとは思えません。しかし人民元が徐々に存在感を示す方向になる可能性は大だと言えます。中国が覇権国家に成れるかという問題は中国が内部に抱える種々の問題に加え共産党一党独裁体制である限り世界の覇権国に成れる要件は無いと思います。それでも中国は世界のリーダ―になるべく上記の通り戦略的手を打って影響力を高めています。

それに対する日本の戦略は・・、と言えば規制緩和の「第三の矢」も掛け声倒れで「xx委員会」の乱立という現状である処に不安感ありです。

 さて以下は著名なエコノミスト、リチャード・クー氏の最近の報告書です。

 ポルトガルの銀行BESの問題が表面化してユーロやユーロ周辺国の株価が下がり暫く沈静化していたユーロ圏の銀行問題が再度注目されました。リーマン以降の欧米の銀行は決済システムを担う為の自行の資金調達問題とバブル崩壊の影響を受けた借り手への融資が回収不能になり銀行の財務内容が悪化する問題を抱えています。結果、銀行間のインターバンク市場が機能せずに金融危機の連鎖が起こる可能性がありますがそれを防ぐのが中央銀行です。ユーロ危機の際もドラギECB総裁が資金供給策を打ち出し域内の銀行の資金調達問題を解消に成功しました。多くの銀行が同じ問題を抱えた時は不良債権の買い手が激減しているので不良債権処理はゆっくり時間を掛けて処理する必要があります。

その時必要なのは09年以降米国が採用した「だましだまし融資を続ける」政策でありバランスシート不況下で景気を良くする為の財政出動です。しかし今のユーロ圏はこの二つの必要な政策を打つ可能性は低く銀行間の問題は今後も尾を引くと思われます。

先月発表された国際決済銀行(BIS)の年報では主要国の金融当局は市場が想定しているよりも早く金融政策の正常化に動くべしと主張しています。この年報で『主要国の景気低迷はバランスシート不況である」と明言しており15年前にバランスシート不況という言葉と概念を作りこの不況下では金融政策は効かないと主張してきた私としては15年を経てようやく認められたという印象です。

中央銀行が警告を発信し続けても回避出来なかったのが中南米債務危機でした。米銀は『企業は潰れても国に潰れない」との理由で警告を無視して79年から危機が発生した82年まで融資を倍増しています。グリーンスパーン元FRB議長もITバブルは根拠なき熱狂と呼んで置きながらFRBが管理できる株のマージン比率をITバブル期に敢えて引き上げず拡大を許した間違いを起こしています。その意味でどんな規制を強化しても最後は人間の判断が大きくこれを間違えれば問題は回避出来ません。現時点で規制強化に走っている人達の殆どはリーマン前にも同じ地位にいて危機発生を許した人達です。普通はこの危機を予想出来なかった人達は退場して貰い予測した人達に金融行政の主導権を持ってもらうべきですが現実は殆どそうなっていません。今回のグローバル金融危機が発生する前までは居眠りしていた人達が今はがむしゃらに規制強化を訴えれおり安易な規制強化は金融システムの健全化にマイナスになる可能性もあり要注意です。

 このBISの問題提起で特に気になるのは日銀です。BIS年報がバランスシート不況下での金融政策の効果が少ない事を認めていながら日本では依然としてその事実を認めずこれまでの経済の低迷は日銀の2000年と06年の時期尚早の金融引き締めだという意見が幅を利かせています。この先鋒にいるのが黒田総裁と岩田副総裁で金融緩和で株価が80%上昇、円も30%下がる結果に自信満々で今やこの二人に盾付く事は次に日本の景気がおかしくなったら自分達の責任にされるという恐怖から本音は別に取敢えず二人の言う通りに行動するしかないとの発想に成っている節があります。これはBISの要請せる早目の金融正常化がず~と遅れる可能性が高いと言う事で実際に黒田総裁はインフレが2%に達成するまで政策を変えないと言い続けています。更なる消費税引き上げを前に日銀が景気を冷やしたと批判されかねない量的緩和の解除は可能性が低いと云えます。

これはFRBが僅か1.1%のインフレ率で政策転換をするのと対照的です。日銀の対応遅れのリスクはGDPの7.5%、36兆円になります。日銀のインフレ問題が後手であると認識され長期金利が急騰したら国債発行コストも大幅に増加する危険性があります。

今回のBIS警告を日本政府と日銀は誰れよりも真剣に受け止める必要があると言えます。

 

以上です。過去に市場の変化を的確に言い当てて来たクー氏の警告です。黒田日銀の強気政策の危

うさを感じるのは私だけでしょうか。

 

 ************************************

  守山  経営コンサルタント オフィス J.M. 代表   

    〒107-0062 東京都港区南青山 3-12-12 南青山312ビル 604号室

    携帯電話: 080-1075-6266   FAX: 03-6459-2112

    メール: jun1207@abox2.so-net.ne.jp

     自宅: 〒107-0062 東京都港区南青山 4-15-16-301

         電話・FAX: 03-3796-5566

 ************************************

 

 

 

コメントを書く







コメント内容



Copyright(c) 2012 Striving Senior, All Rights Reserved.