通訳の怖さ、佐藤・ニクソン階段をめぐってーー守山淳

2014-07-29

米国の外交文書公開で日米繊維問題の際にニクソン大統領が佐藤総理の対応に激怒
した、という内幕が新聞紙上を賑わしています。これに関連して某先輩から当時彼が聴いた話を
メールして呉れました。ご本人は真偽の程は定かでないが大いにありうる話と言っていますが私も
そう思います。

国家も個人も紛争はちょっとした誤解、慣習の違いで真意が相手に伝わっていない事
が原因という事が多く経験しています。本件も通訳の訳し方で起きた誤解ではないか、という事で
す。 通訳は内容を正確に伝える事が何よりも重要な役割です。その為には流暢な英語より
も生きた英語で正確に話せる必要があります。

ニクソン陣営は選挙では強くありませんでした。2期目の選挙ではWatergate事件を引
き起こしたほどです。少数派の共和党大統領候補は個人的魅力で民主党勢力を切り崩す必要がありましたがニクソンは御存じの通りの人柄でアイクやレーガンなどに比べてイメージは個人的には弱いです。

南部の民主党は党利・党論よりも自分達の利益優先の性格が特徴です。南部綿作地帯
を味方に引き入れるためにニクソンは日米繊維交渉を道具にしようとします。ニクソンにしたら佐
藤総理との会談での繊維問題は尋常ならぬ関心事でした。日本からの繊維製品輸出に危機感を持つ南部綿作地帯向けPR用としてニクソンは大幅な日本製品の輸出対策を要求しました。当時日本では業界の自主規制の動きがでており佐藤首相は「善処する」と言ったそうです。

これを通訳は I will take care of it. と訳しました。ニクソンは大喜びでthank
you を連発し会談は友好理に終わりました。問題はこの後です。

日本は国内業界が合意できる自主規制で事足れりとの考えでおりました。一方アメリ
カ側は南部綿作地帯の民主党を喜ばす強烈な規制を約束されたと理解し短時間で大きな効果が出るものと予想していた為「佐藤は嘘つきだ」とニクソンが激怒した訳です。

I will take care of it.という言葉の持つ事態への徹底度の認識の差です。

元々日本語は主語が明確でなく堂でも取れる曖昧な表現が結構多くあります。日本だ
けに限らず政治家の言葉は抽象的な表現が多いのが通例で腹芸とか大人の会話とか言われますが要所ではキチンと伝えないと大きな齟齬・誤解・問題が生じます。英語がうまいだけでなくその英語がどのように使われるのかは大変難しい事ではあります。

昨今のように各界のトップが頻繁に外国に出向きトップ会談を行うような状況の中で
日本人の生きた英語力に対する懸念を思わせる事件でした。

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守山 淳 経営コンサルタント オフィス J.M. 代表

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コメント2件

  • 早房長治 | 2014.07.29 14:25

    (下記は小林昌三さんのコメントですーー早房)

    「全くその通り!」。我々民間人は ビジネス場面で直ぐ利害に影響あり、「誤訳」や「誤通訳」は絶対と言ってよい位 許されない。官僚も同じでしょう。ただ、政治家は もともと 喋る言葉自体を曖昧にする 永年の悪しき伝統(?)あり、如何に言葉尻を捉えられない様、上手に話すかが、一つの才能見たいにいわれる。
    「善処する」など その典型のひとつ。ところが 言う迄もなく英語等に訳すと 往往にして誤解 招く表現になりがち。
    この例にある I will take care of it.
    は日本人なら、おそらく90% 以上は やるに違いない。それを聞く方は「自分に都合良い解釈しがち」で、このNixon 氏も例外ではない。怒られても致し方なかったと思う。こう言う交渉場面は今後も起きる可能性あり、十二分に注意せねばならない。
    私が在京米国大使館勤務時、似たような経験あるが、幸いにして交渉Levelが 違ったので 当然のことながら大きな問題にはならずに済んだが………。
    言葉の問題は 外人と接する限り 永遠につきまとい、そこから笑いやユーモアが生まれたり、逆に誤解で喧嘩になったり世界中で起きているに違いない。

    私のコメントです

  • 早房長治 | 2014.07.29 14:36

    (下記は赤谷慶子さんのコメント。赤谷さんの父、源一さんは問題になっている佐藤・ニクソン会談の通訳を務めたといわれています。日本人初の国連事務次長、元チリ大使も歴任しました)

    佐藤・ニクソン会談の通訳は、多分、父がしたと思うのです。この訳に関しては、色々なことが言われていますが、善処すると佐藤が言ったのはyesだったそうで、ニクソンが怒ったとかやれどうしたというのは知らない人たちが言っていることで、日米の当
    時の関係では、(今でもそうでしょう)日本がアメリカに対してnoなどとは絶対に言
    えない間柄だったのです。この善処しますという言葉の通訳に関しては、通訳が間違っていた等色々言われ続けています。知ったかぶりの人たちが沢山いて困ったも
    のです。

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