強引すぎる安倍内閣の政治運営、集団的自衛権も成長戦略も

2014-07-08

通常国会の予算審議が終わった4月頃から安倍内閣の強引すぎる政治運営が続いている。今月1日、閣議決定した集団的自衛権の行使容認では、「なぜ憲法改正の手続きを取らず、一内閣の憲法解釈の変更だけですますのか」などの重要ポイントについて、ほとんど説明しなかった。6月24日に閣議決定した新しい成長戦略は法人税減税、残業代ゼロ、公的年金からの株式投資拡大など問題のある項目を多数含んでいるが、内閣は、これらについても十分な説明責任を果たしていない。このままでは、議会制民主主義は破綻しかねない。

集団自衛権の行使容認は軍事力の発動を「専守防衛」に限定していた憲法9条を覆す、安全保障政策の大転換である。これを与党間の密室協議と一内閣の憲法解釈の変更によって行うのは立憲主義にも議会制民主主義にも反する。それにもかかわらず、安倍内閣は憲法改正の手続きを取らないだけでなく、その理由を説明しなかった。

「なぜ、今、集団的自衛権の行使容認の必要があるのか」という国民の疑問に対しても、安倍内閣は安全保障環境が厳しくなったことを強調するだけで、ほとんど口を閉ざしたままである。たとえば中国の軍備増強が脅威であるなら、その理由を明示し、集団的自衛権の行使によって脅威が取り除けることを論証しなければならない。安倍内閣は閣議決定にあたって、このような論証を試みようとさえしなかった。

今回の閣議決定に対して国民の持つ最大の不安は、集団的自衛権の行使に関して明確な歯止めがいっさいないことである。首相は閣議決定後の記者会見で、「(政府が与党協議の終盤で示した)武器使用の新3要件は憲法の規範性を変更するものでなく、憲法上の明確な歯止めとなっている」と述べている。しかし、新3要件の第1項を見れば分かるように、抽象的な文章が羅列されているだけで、明確な歯止めは見当たらない。

「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明確な危険がある場合に、(集団的自衛権の行使が容認される)」というような、具体的な場所もケースも限定していない行使容認条件は、時の内閣によって、いかようにでも拡大解釈することが可能である。

政策決定の粗雑さと強引さは安全保障分野だけではない。経済政策でも同様である。

このたび閣議決定された成長戦略のうち主なものだけをチェックしても、政府が政策の意義や欠点について、国民に対してまともに説明しようとしていないことが分かる。

新しい成長戦略の最大の目玉は法人税減税である。消費税を減税する一方で法人税を大幅減税することには政府内でも意見が分かれたが、安倍首相の強い意向で、成長戦略と同時決定した「経済財政と改革の基本方針」(骨太の方針)に盛り込まれた。甘利明・経済財政・再生相によると、現在、35%強の実効税率を20%台に引き下げることを検討しているという。

もし、法人税の5%引き下げを実現すると、代替財源として年約2兆5000億円が恒久的に必要になる。しかし、現在の政府にはそのような財政的余裕はない。このため、安倍内閣は代替財源をどうするかは先送りして減税方針だけを決めた。このような租税政策は過去にも例がないほど乱暴なやり方である。甘利氏は「法人税減税すれば企業の設備投資が増え、結果的に経済が成長し、税収も増える」と唱えるが、これは高度成長期だけに通用する理屈である。

年収1000万円以上の専門職に就いているサラリーマンに時間でなく成果で測る働き方を導入する労働システムの転換は、財界の要求を丸呑みしたものである。連合など労働側は「厳格な長時間労働規制がないままに成果主義・残業代ゼロを導入したら、今まで以上に長時間労働やブラック企業がはびこる。本人が希望した場合にだけ適用するというが、会社側の圧力を跳ね返せるサラリーマンは少ない」と反論するが、政府はこれにまともに答えていない。

公的年金(GPIF)の株式投資シェアを拡大する政策は成長戦略というより当面の株価対策とみなすべきものである。一部で提案されているように、シェアを現在の12%から20%に引き上げれば、約10兆円の資金が株式市場に新たに流入することになり、一時的な株価高騰は必至だ。しかし、金融ショックの再発などで株価が急落した場合、目減りした年金をどうして補うのか。その方法を政府は国民に示す責任があるが、今のところ、政府部内では何の方策も検討されていない。

安倍内閣が国民の多数から支持されていない政策を強行しているのはなぜであろうか。与党が衆参両院で多数を占めていることが第1の理由だが、閣僚、官僚や自民党幹部が安倍内閣の高支持率に委縮して、国民の厳しい意見を安倍首相に伝えなくなってしまったことが第2の理由に挙げられる。このような状態が続けば、首相は「裸の王様」になる可能性がある。その結果、内閣支持率は大幅に下がって政権は短命化し、政治は再び混乱に陥るであろう。混乱防止に、国民各層が今から行動しなければならない。

 

(早房長治、7月7日記す)

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