疑問だらけの「集団的自衛権の行使」15事例--政府提示

2014-05-30

疑問だらけの「集団的自衛権の行使」など15事例
多くは個別的自衛権で対応できる、海外派兵に歯止めなし

憲法解釈の変更によって集団的自衛権を行使することを目指す安倍晋三政権は、連立与党である公明党との調整協議にあたって、有事に準じるグレーゾーン防衛、集団的自衛権の行使、PKO活動を主とする集団安全保障の3分野について憲法解釈を変更する15事例を提示した。その中身を見ると、現実味の薄いもの、個別的自衛権でカバーできるものや、海外派兵に歯止めがほとんどなく、専守防衛を謳う憲法の原則とは全く無関係に、はるか遠い国で日本の若者が血を流したり、死ぬことになりかねない、という事例が目立つ。

安倍政権は北朝鮮を仮想敵国と名指ししていないが、朝鮮半島有事における日米共同作戦を強く意識している。15事例のうち7例は日本海などにおける米艦の防護と支援である。しかし、日本周辺で武力攻撃を受けた米艦や邦人輸送中の米艦の防護は個別的自衛権の拡大行使で処理できるであろう。日本から遠い領域で米艦が海上自衛隊の支援や防護を求めることはほとんど考えられないし、北朝鮮が米国に向けて発射した弾道ミサイルを自衛隊のイージス艦が迎撃することは「技術的に不可能」と自衛隊幹部が明言している。

自公協議で最初に取り上げられているグレーゾーン防衛は武装した外国人漁民などが離島などに上陸するケースだが、公明党が指摘するように、海上保安庁の装備強化などを図れば個別的自衛権の行使で十分に対応できるであろう。

安倍政権が最重要視する「集団的自衛権の行使」そのものの事例は8例あるが、米艦の支援・防護以外のものはホルムズ海峡などにおける紛争中の機雷掃海活動への参加と、民間船舶の国際共同防護活動への参加である。これらの活動は紛争地域では海外での武力行使に当たることから、従来の憲法解釈では禁じられてきた。安倍政権はこれらのケースにおける制約を外そうとしている。また、米艦の支援・防護でも地域的歯止めは明記しておらず、自衛隊を世界中、どこへでも派遣できるようにする可能性がある。

国連PKOを含む集団安全保障の分野で、当面、焦点となっているのは、PKO活動中の自衛隊の近くにいる各国のボランテイア団体や各国部隊が危険にさらされた時、「駆けつけ警護」できるように武器使用の制約を緩和したらどうかという問題である。これは考慮に値するテーマであろう。だが、これはPKO協力法の枠内の問題であって、集団的自衛権とは直接関係ない。

最後に、集団的自衛権の行使の問題を考えるにあたって、留意しなければならないことが2つある。第1は、古今東西の歴史で明らかのように、海外派兵ないし侵略は多くの場合、自衛の名の下に行われたことである。第2は、最初の段階の海外派兵は非常に限定的であるが、次第に拡大し、際限のないものに変わるケースが多いことである。これらは第2次大戦における日本、ベトナム戦争における米国の例を見れば明らかである。

安保環境の変化に伴い、集団的自衛権の行使について検討してみる必要もあるであろう。しかし、私ども日本国民は歴史に学び、「自衛」の言葉に騙されてはいけない。海外派兵には厳格な歯止めをかけることを忘れてはいけない。

(早房長治、5月30日記す)

● ブログの調子が悪く、投稿に手間取り、上記文章の掲載が遅れたことをお詫びします。
 

 

コメントを書く







コメント内容



Copyright(c) 2012 Striving Senior, All Rights Reserved.