原発は必要だが、安全システムの大改革が必要だーー2月の勉強会での宅間正夫氏の主張
2月18日勉強会報告
もう半月前になりますが、2月18日に開かれた勉強会は東京電力柏﨑刈羽原発の元所長、宅間正夫さんが講師として 原発の歴史や、福島原発事故の原因、さらに今後の原発のあり方について、丁寧かつ説得力のあるレクチャーをして下さり、 これを基に有意義なデイスカッションが行われました。宅間さんのレクチャーの要旨を中心に、勉強会について報告します。
宅間さんは「福島事故の真の原因を解明するためには、原子力技術が異常なスタートを切ったという歴史的事実に遡らなければ ならない」と、レクチャーの冒頭で述べました。米国は第2次大戦中、ナチスドイツに負けないように原爆開発を急ぎました。 戦後は、ソ連と原水爆と原発の開発競争を繰り広げました。この結果、原子力という巨大科学技術は政治と結びつき、イデオロギー に弄ばれたというのです。当然なことながら安全は無視され、原発については、「安全神話」が独り歩きしました。アインシュタイン 博士をはじめ米独の原爆開発に携わった学者たちは原子力の危険性について、戦後、早い時期から警告を発しましたが、米ソ両国 政府から無視されました。
日本では、アイゼンアワー米大統領が1953年、原子力平和利用を提唱した後、首相の座を狙っていた正力松太郎氏や、中曽根康弘氏 (元・首相)らが「世界の動きに乗り遅れてはいけない」と欧米からの原発の導入に動きました。この結果、米国以上に原子力の安全性 についての科学的基盤を欠く日本は、米国の安全技術を丸呑みして原発建設を急ぎました。ちなみに、爆発事故を起こした福島原発1号機は、 米ゼネラルエレクトリックがスペインに建設するように設計したものを東電が買って、そのまま福島に建設したと、宅間さんは明かしました。
独自の安全技術を持たない日本としては、政府、電力会社とも「原発は100%安全」と強弁せざるをえません。数年後には、欧米にはない 「安全神話」を唱え始めました。この間、東大・原子力工学科卒業生を中心とする原子力技術エリートは米国から押し付けられた秘密主義を 巧みに利用して「唯我独尊」の道を歩み始めました。しかし、「こうしたエリートたちは新興分野の技術者にありがちなコンプレックスを 持っていたように感じられた」と、宅間さんは述べています。
73年秋の石油ショックをきっかけにに原子力エネルギーが脚光を浴び、急ピッチで原発が建設されました。と同時に、多くの原発で初期故障 が続発し、原子力技術者はトラウマを抱えるようになりました。こうなると、電力会社だけでなくメーカーでも原子力部門の秘密主義がさらに 高じ、行政、学会も加わって、あらゆるところに「原子力村」が誕生しました。
福島原発事故の根底にあるのは安全思想・安全哲学の未熟と不徹底です。米国の原子力技術を過信した上、過去の原子力トラブル・事故から 教訓を十分に学ぶことを怠りました。米国ではスリーマイル島原発事故(79年)の後、「設計通りに原発を稼働しても事故は起こりうる」として、 ジャクソン原子力規制委員会委員長の下で、徹底的なシビア・アクシデント対策に取り組みました。欧米各国はチェルノブイリ事故(86年)の後、 安全文化の転換に真剣に取り組みました。これに対して日本では、新たな安全・安心目標を立てることもなく、51年の原発体制のスタート以来 続いた原発推進と規制を混同したシステムが改められることもありませんでした。このような推移から分かるように、福島原発事故は東日本大地震 が引き金となったとはいえ、「人災」であったことは間違いありません。
日本では原発について、欧米と違って、「事故の発生防止」「拡大防止」「高濃度放射能の放出防止」という「全段否定」に対する理解が極めて 低い状態が今日に至っています。シビア・アクシデント対策とともに、防災対策が無視されています。原発の保守は下請け会社任せで、 原子力技術者の現場経験・現場感覚は希薄です。これでは原発事故が今後も起きる可能性は高いでしょう。
原子力発電の今後については、「本質的には『つなぎのエネルギー』ではあるが、当分の間、ベース電源として利用せざるをえない」というのが 宅間さんの基本的な考え方です。最近、最大の問題となっている高放射能廃棄物の「捨て場」については、「安全化し、量的に減らすことが可能 なので、近い将来、捨て場を見つけられるだろう」としています。そして、「この道が開ければ、プルサーマルを利用した核燃料サイクルの実現も可能ではないか」という 展望を示しました。さらに将来的には、放射能を放出しない「本質安全原子炉」の開発の必要性を強調しました。高速増殖炉「もんじゅ」については 、強い疑問を示しました。
それにしても、原発を安全に稼働していくための課題は少なくありません。宅間さんは必須の課題として①原子力推進と規制の行政機関を完全に 分離する②国民全体と地域住民が納得できる安全・安心目標を科学的・合理的に立てる③エネルギー計画を地球的規模の視野から見直し、原子力の 位置付けを決める④電力会社などの技術管理者の倫理の確立➄電力事業者のガバナンスの劣化防止などを挙げました。
質疑では、「原発の稼働を3.11前に戻そうとしている安倍政権のようなやり方では、また、深刻な原発事故が起きるのではないか」「このまま行けば、 行政、電力業界、メーカー、学会などに、再び『原子力村』ができるのではないか」といった質問・反論が出されました。これに対して宅間さんは 「新しい安全システムの必要性」を強調するとともに、「新システムの下での原発再稼働について、国民を粘り強く説得しなければならない」と 締めくくりました。
(報告についての文責・早房長治)
早房長治 | 2014.03.14 1:32
(以下は小林昌三さんに送られてきた守山淳さんのコメントです)
宅間氏の講演要旨を拝読致しました。ご指摘の通り原発のリスク、問題点を的確に理解され正にプロだ
と感じます。しかし現実の政治はそうした事は全て無視し原発再稼働にガムシャラです。何故なのか、と
考えると結局は利権構造を死守したい人達の自己中心的動きがあるからだろうと思います。自民党もその
支持基盤である原子力村を敵に回す事が出来ないが故に国民の安全も非原発分野に挑戦する事での新規商
材の可能性も封印している様に思います。
小泉、細川元総理の脱原発は無責任だという声がありますが私自身は福島の原因も分析せず再稼働にひた
走る安倍政権の方が無責任だと思っています。脱原発を即時原発廃止とするのか、脱原発を基本に出来る
限り短期間で代替エネルギー開発に全力を上げる政策を進めるのか、という事だろうと思います。しかし
脱原発=則廃止だ、とする論調が独り歩きしそれは無責任な政策だとして政権の原発再稼働が着々と進ん
でいると感じます。それを支持する人達は「原発の安全確認、確保をして・・・」と言いますが福島の事
故で絶対的な安全はないと学んだはずです。それなにに原発再開にまた絶対安全を求めるのは論理的にお
かしいと思います。加え地震大国である事への検証も必要だろうと思います。
日本人の英知、優秀さは代替エネルギーの開発と言う明確な方向性を示し予算を付ければ必ず問題を克服
する丈の優秀さはあると信じています。
以上の視点で宅間氏の講演を読んでいると原発再稼働者には宅間氏の様な謙虚さと冷静な視点を持って最
大の対策を模索しながら代替エネルギーが完成するまでは比較的安全な原発は動かそう、という姿勢であ
れば安心感もありますが今の安倍政権、自民党の姿勢は宅間氏が指摘する通り福島以前に戻り何らの反省
もしないという事になる危険性を感じます。
物産は戦前からGEの総代理店です。事故を起こした福島第一も物産が仲介商社です。もっとも当時の
日本には原発に対する知識はゼロですからGEの言い成りだったと聞きます。ハリケーンの危険性のある
アメリカですから発電設備は下に設置。津波リスクはGEの頭にはありませんでした。しかし同じ時期に
同じGEの原発を設置した東北電力女川は無傷です。何故か、昔から津波被害が語り継がれていた事を知
っている東北電力が高台に原発を設置。福島は現場を知らない東京本社が海水を利用するに出来る限り海
に近い場所という経済効率を優先して設置したからです。これを大きな面では人災だとおもいますがこう
した報道は余りされません。既存の原発は既に設置されていますから東北電力の如く高台に設置していな
い原発は稼働させない、といった方針もこうした福島と東北電力の違いを確り認識していればそうした方
針も出て来るのだろうと思いますが安倍政権はそうした問題も封印して兎に角再稼働という危険な姿勢だ
と感じます。
早房長治 | 2014.03.15 23:33
(以下は小林昌三さんのコメントです。私のうっかりと超多忙から、掲載が遅れました。申し訳ありませんーー早房長治)
“挑戦するシニア” の みなさま へ
『2月18日勉強会』 で 宅間正夫氏(元・東電柏崎刈羽原発所長) レクチャーは 実に素晴らしい。
早房さんの まとめ もすぐアタマに入る 分かりやすい説明で この一文は 日本人すべてに読んで欲しい と感 じた。
今、政府は 今後の原子力行政の いわば岐路 に立っている と思う。
3年前 の福島原発事故 以来、様々な 議論があり、また 識者と称する人々の意見や論点 も 拝見してきた。
菅 直人氏や 先の都知事選 での 細川・小泉純一郎氏など 無責任な放言 も含め、国民の関心は 非常に高い。
にも関らず、肝心の東京電力、経済産業省の その後の対応は 遅々として明快な方向性すら打ち出せないでいる。
経産省など 優秀な官僚が ゴマンと居ながら 何故 宅間正夫氏のような正論 が出てこないのか?
また、東電 トップ・マネジメント は何を考えているのか 釈然としない・・・・昨年亡くなられた 吉田正司所長(?-元・福島原発所長) や この 宅間正夫氏のような 原子力を理解している人々 (少なくとも現場第一線で体感し、何を優先せねばならぬか理解して いる方々) の意見を 吸い上げ、それを マネジメントに反映できなかったのか?
ここに書かれている如く、原発事故は人災である のは間違いなく、また 現在の 東電トップや 経産省の対応では再び同 様な事故が起こる可能性は否定できない。
また、小泉純一郎・元首相や 細川元首相など 廃棄物処理も含め原子力の今後のあり方 をただ批判するだけでなく 当面 の建設的な施策 を関係者と共に 前向きで具体的方策 を早急に まとめ、それを実際の原発のあり方・現状維持 を いつまで続け、もし 長期的に全廃の方向 であるならば 何時までに どの原発を稼動させ 又は 廃炉 にするのか のスケジュール を時系列的に 発表してもらいたい。
その際、ここに宅間正夫氏が必須の課題 として 書かれている如く ①~⑤ に指摘されて いる ことを 真剣に取り上 げ 即実行 願いたいものである。
そして 早房さんが 最後に まとめられている如く -安全システムを確立し 新安全システムの下で原発再稼動する方向、で国 民が納得できる 議論を展開しながら 進めてもらいたいものです。
この宅間氏の ご意見は 国民の殆どが 賛成でき 納得の行く当面の解決策 だと 考えます。
この卓見を 拝読し、いつもの 独断と偏見で ひと言 書かせていただきました。
ついでに、”企業は人材なり” 言われながら、トップに人を見る目がないと悲劇になる 事実が 東電でも証明されてしまった。 それが 一企業で 収まるような事業ではなかった事が大問題、また 経産省官僚が真面目に 真剣に国民の 財産と生命を考慮していないことが 垣間見える。
豪ヒマ人