ウクライナ問題の見方、そしてアベノミクスへの疑問

2014-03-21

(守山さんの投稿は相変わらず長文で、会員の皆さんは読むのに苦労なさるのではないかと思います。今回も超長文です。しかし、内容は大きな問題は提起していて、皆さんの参考になると思いますので、掲載しますーー早房長治)

 

ウクライナ。名古屋在勤中に商工会議所港ミッションで訪問した事があります。美人が多い事

と空港などで小銃を持った制服姿の兵士を多く見かけた記憶があります。改めて欧州とロシアの

間で揺れ動く地政学的に不幸な国だなと感じます。

3月初旬にプーチン大統領が記者会見をして自分達の正当性を主張しました。ウクライナ憲法で

は大統領の辞任は「死亡」「本人の辞任」「弾劾による解任」と規定されている。弾劾は最高議

会指名の特別調査委員会で国家反逆などの有無を調査する事に成っている。プーチン大統領は亡

命したヤヌコビッチ大統領はそのどれにも該当せず親EU派のクーデターであるからヤヌコビッ

チ大統領が今でも合法的で正当な大統領であるという主張です。その大統領の要請での治安維持

の為に軍事介入するものであり欧米の非難は当たらない。親EU勢力が親露勢力を武力で追放し

た今回の紛争は非民主主義的であり不当であると主張しています。更にクリミアの住民の意思を

尊重し独立を承認する事を発表しました。

日本のマスコミは米国発信の情報に影響されていますので「ロシア=悪、欧米=善」の構図での

報道です。立ち位置が変われば同じ紛争でもこの様に違うという良い例です。

世界の警察の役割を放棄した米国は経済制裁で対抗しようとしていますが果たしてどの程度の

効果があるか、EU諸国は最後まで経済制裁を貫く事は出来るか、です。特に東独出身のメルケ

ル首相のドイツは脱原発政策で隣国フランスの原発で発電された電力とロシアからのパイプライ

ンによる天然ガスの供給でエネルギー資源を確保しています。ロシアが欧米の経済制裁に対抗し

てウクライナに行ったと同じ制裁をドイツに適用して天然ガス供給を停止したらドイツは何処ま

で頑張れるか、です。

今の世界は深い経済的補完関係の構図で成り立っている事から経済面での損得が政治の政策に大

きな影響を与えます。この現実的外交の傾向は益々強くなっている様に感じます。中国の人権問

題、チベット弾圧などに厳しい姿勢であった英国のキャメロン首相が昨年大勢の経済人を引き連

れて訪中をしました。米国が対中国政策に弱腰であるのも中国市場への大きな期待があるからだ

とも言えます。更に中国は固唾を呑んでこのウクライナ情勢を見ていると思います。米国の出方、

EUの結束力次第で尖閣列島への武力行使のタイミングを見ていると推測します。安倍総理は当

初、ロシアへの経済制裁に欧米とは少し距離を置きました。ソチ五輪に敢えて出席した安倍総理

ですが一変して欧米と歩調を合わせた対ロシア制裁に参加しました。尖閣列島を考えるとロシア

が少なく共中国支援ではなく中立を貫く事を担保する事が北方領土問題も抱える日本の国益に合

致するのでは、とも思います。

1980年代、バブル絶頂期の日本は世界から注目されました。日本の復権は経済的活力を取り

返す事だと改めてウクライナ情勢を見て感じましたがその日本ではアベノミックスが失速し始め

ている様です。今回クー氏もその点を鋭く指摘していますが自民党圧勝の基盤が利権業界の支援

である事を考えると第三の矢は掛け声だけに終わり日本経済は失速する危険性を感じます。

 

さて、恒例のクー氏の報告書の要旨を下記致します

米国の金融緩和縮小策で新興国の動揺が引き続き注目される一方で日本の株式市場が他の市場

に比べ勢いを失っている。これは外国投資家が1年前に抱いた期待と1年後の実態の乖離が問題

視され始めた事を示している。即ち、アベノミックスへの期待で大幅な株高と円安が起ったが最

近はこの期待が疑問に変わっている。豪州、LDNで面談した投資家たちの関心は「昨年第4Q

のGDPが前年比プラス1%と減速している中での4月消費税増税で大丈夫なのか」「昨年はあ

れ程騒いだ第三の矢の構造改革の話は一体どこにいったのか」という二点であった事でも良く分

かる。消費税増税は政府が5.5兆円の財政出動でマイナス効果を相殺しようとしている、と説

明しても金額的にも内容的にも本当にそれで充分か、という質問が何度も出てきた。5.5兆円

の対策は消費税時にすかさず対処せねば景気が低迷しからでは幾ら政府が企業向け対策を行って

も企業は反応しないだろうとの懸念を彼らは強く持っている。日本のマスコミは消費税を上げな

いと外国人投資家が逃げると脅しを掛けているが実際はその正反対で日本株を持っている投資家

ほど消費増税による景気の腰折れを危惧している。更に第三の矢である構造改革も何ら具体的話

がなく安倍政権はやる気がないとの判断をし始めた。この様にアベノミックスへの期待が株価を

押し上げた訳で今はその逆の流れに成り始めたのが最近の日本株の勢いの無さに現れている。

構造改革は成果が出るまで5年~10年、場合によってはそれ以上の時間が掛かる。実際米国で

構造改革を言いだし税制の大規模改革を中心に実行したのはレーガン大統領だがそれが開花した

のはクリントン大統領の時代であった。構造改革を期待して日本株を購入した外国人投資家のお

蔭で日本の風景も変わり経済全体は恩恵を受けたがそれは飽く迄アベノミクスへの期待だけでフ

ァンダメンタルへの信頼で購入した訳ではないから期待が不適切と判断した時点で株価に大きな

影響がでる可能性が高いと言える。故に安倍政権は今まで以上のスピードで彼らの期待に応える

必要がある。しかし構造改革は各業界が自分達は国民経済の中で特別な位置づけてあると強調し

て改革に抵抗する為に中々前進が出来ない。これでは日本経済全体が行き詰ってしまう。安倍政

権は個々のマイナス面を全て足しても国内の投資機会の拡大というプラス面の効果がある事を良

く説明してリードする必要がある。

一方、豪州で開催されたG20で2%の成長率数値目標が示されたのは大きな変化である。従来

のG20諸国の多くがバランスシート不況に拘らず経済成長と財政再建の二兎を追う欲張りな政

策に固執して極めて惨めな景気回復しか達成出来なかった事に対する反省とも言える動きである。

今回の数値目標は最大の経常黒字を出し続けるドイツに更なる景気対策を促す意味もある。処が

当のドイツは失業率も20年振りの低水準で国民は好景気の中でインフレを心配している。そん

な国に更なる財政出動で景気を良くすべきだという米国などの主張には無理がある。それでもド

イツがやるべき事は3点あるが第1点は「バランスシート不況にある他EU諸国に財政再建を要

求しない事」。他のEU諸国の経済成長率の悪化はドイツが新財政協定で不況下ではとんでもな

い逆効果になる財政再建策を押し付けた為である。第2点は「周辺から流れ込んだ資金を自ら借

りて使うのではなくそうしたカネが最初から夫々の国の国債市場に向かう仕組みを作る事」。

スペイン、ポルトガル、ギリシャなどの民間貯蓄が自国の国債市場に回れば財政危機など本来発

生する理由がなかったが民間貯蓄が同じ通貨圏のドイツの国債市場に逃げ出した為に危機が発生

した。これは為替リスクを取らねば他国の国債を買えない日米英などでは発生しないEU圏固有

の問題であった。第3点は「マーストリヒト条約をバランスシート不況対応型に改定する事」。

バランスシート不況を全く想定していない条約を改めその様な国では民間貯蓄に見合った財政出

動を認めるという方向に条約改定作業を主導すべきである。これらはEU圏最強の経済を誇るド

イツが主導しなければ成功しない。

処でイエレン新FRB議長は2月の議会証言で量的緩和政策の段階的縮小が引き起こした新興国

の動揺は米国経済に大きな影響を及ぼしていないと言明した。これは自国に問題なければ周辺に

問題が発生しても政策は続行するという自己中心的発言にも聞こえる。彼女は米国経済が回復に

向かう中で量的緩和の解除が後手に回れば米国にとっても新興国にとってもとんでもない事にな

るという意味での発言だと理解する。その背景には議長が金融政策の正常化という観点からする

と未だ緩和の1合目にも達していないという認識が背景にあると思われる。

日米英の量的緩和は流動性を供給する丈でなく長期金利も下げ長期債を購入する事で量的緩和を

進めてきた。前回の2001年~2006年の日銀の量的緩和は民間が発行した3ケ月物の手形

を日銀が購入する形で実施して市中の流動性を法定準備額の7倍まで増やしたが2006年に景

気と資金需要回復の兆しが出た処で資金の回収に向かった。処が今回の黒田日銀は長期債の購入

で量的緩和が行われている為に償還まで5年や10年という長期間が必要であるという点と発行

体が政府である為に償還になっても民間銀行が中央銀行に持つ当座預金の減少要因にはならない

という問題がある。ここで問題は民間資金需要の回復が中央銀行の長期債償還を待って呉れるか

という点である。

民間の資金需要が急速に回復に向かったら中央銀行は債券の償還前に市場にある過剰準備の不胎

化か回収が迫られる事に成り顕著な金利上昇に繋がる危険性が生れる。FRM議長の方針は正に

少しでも早期に金融正常化を進め民間資金需要が回復した時に金融当局が直面する問題を最小限

に抑えて置きたい為だと推測する。

 

以上です。金融の素人の私には少し難しい点もありますが要は金融緩和の後始末は緩和以上に難

しいという事です。クー氏が良く使う「量的緩和の罠」ですが最近の安倍政権の動きを見ている

と憲法問題、集団的自衛権、教育制度問題に軸足が移っていて経済政策への発信が極めて少ない

様に感じます。正に冒頭に記した外国投資家が失望している第三の矢への意欲の無さです。

安倍政権の支持率はデフレ脱却=力強い日本経済の復活への期待が支えている訳で経済が裏目に出

たら支持率は急落すると思います。台頭する中国に対抗する為にも先ずは強い経済力、存在感ある

日本の復活が絶対的優先課題だと思いますから小泉元総理の「自民党をぶっ壊す」的覚悟で利権構

造業界への規制緩和策による経済の活性化を不退転の決意でスピーデーに進める以外にないと思う

のですが皆様はどう思われますか。

 

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コメント2件

  • hayabusa | 2014.03.21 5:47

    ウクライナ

  • 早房長治 | 2014.03.21 6:33

    ウクライナ問題はそれ自体も複雑ですが、日本の立場も考え合わせると、いっそう複雑で、方針を打ち出す前に深い戦略を構築しなければなりません。ところが、安倍政権には外交戦略がほとんどない状態です。この問題も、安倍首相ははじめプーチン大統領と北方領土のことだけを考えて中立的な方針を打ち出しましたが、「オバマ訪日の対応に失敗したら大変ですよ」という外務省などのアドバイスを受けて、あわてて欧米路線に転換しました。

    米国もEUもロシアに対して強硬路線を貫くことは不可能ですから、対ロ政策は揺らぎ続けるでしょう。そうなると、その後を追う日本の対ロ政策は体をなさなくなる恐れがあります。少なくとも、外交政策を考える方程式を多元化しないといけません。にもかかわらず、政治家と官僚の大部分は「米国の力は落ちても、やはり日本は米国についていくほかない」と考えているのです。(早房長治)

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